はじまりは胃腸炎だった。
5月の初めに下北沢で飲み歩いた。
その翌日からその日食べに食べ飲みに飲んだものを
けろけろと吐き戻し、つらい二日ほどを過ごしたのだ。
食べることに喜びを見出せないでいると
生きることはなんて味気ないんだろうかと思った。
もとから痩せっぽちではあるが、
体重が50キロを下回ることはめったになかった。
けれどもこのインプットできないままに
元気いっぱいけろけろとアウトプットを繰り返した二日間のおかげで、
気がつけば体重が48キロにまで落ちていた。
身長173センチ。48キロとなるとBMI値は16.04。
BMIの目安として値が18.5未満は「低体重」とされ
「低体重」はさらに「痩せぎみ」「痩せ」「痩せすぎ」の三段階に分けられる。
「痩せすぎ」は値が16.0未満である場合を指すから、
僕はもうあと一歩で「痩せすぎ」である。
なにごとにおいても過ぎることはいいことではない。
過剰であることは、その方向性がどうあれ、サステイナブルではない。
さらにわざわざこんな指標を持ち出すまでもなく、
経験則として、僕は体重が50キロを切るととたんに体調が悪くなる。
動悸のぼせ眩暈いらつき、あらゆる不定愁訴に見舞われる。
健康でないと、世界のことなんかどうでもよくなる。
自分のことで精一杯になってしまうと
他人を思いやるだけのこころの余裕もなくなってしまうのだ。
そこで僕は決心した。
まずは健康になることだ。
そのために増量をしよう。
BMIの設定する適正体重は高すぎてモチベーションがさがってしまうのと、
そもそも僕は細身の僕が好きなので
健康的な痩せ型を目指すことにする。
そのため目標体重は55キロとする。
ここまで増量して、それを維持すること。
それが目指すべきゴールだ。
そこで僕は下記のとおり実行プランを定めた。
(1)毎晩寝る前にプロテインを飲むこと
(2)隙あらば運動すること
(3)毎晩寝る前に体重を測り記録すること
これは僕自身の健康のために始めたアクションの、
初動1ヶ月の記録となります。
(1)毎晩寝る前にプロテインを飲むこと
増量といってもむやみやたらと食べるというのはむしろ胃腸を痛める。
そもそもの始まりは下北沢で飲み食いしすぎたからなのだ。
そこでプロテインの力を借りることにした。
「大きなカラダづくりに」という言葉に惹かれて購入したのは
「ザバス ウェイトアップ(バナナ味)」。
人生初のプロテイン。
よくわからないけれど「大きなカラダづくり」とあるんだから間違いないだろう。
これを寝る前に温めた牛乳に溶かして飲む。
バナナシェイクみたいで美味しくはないがまずくもない。
だけどもやっぱり美味しくはない。
1週間ほどでつらくなってきた。
あっという間に飲まないで済ませる日が増えて、
見かねた奥さんがこんなものを作ってくれた。
プロテインクッキー。
甘味はプロテインのバナナ味だけ。
プロテインは美味しくないくらい甘いのでそれで十分。
むしろ他の材料と共存することで、ちょうどいい甘味として
いいパフォーマンスを発揮するのだ。
このクッキーを職場でおやつとしてばりばり食べる。
おいしい。
おいしいぞ、これは。
もちろんクッキーの中に含まれるプロテイン量は
寝る前に飲むのと比べたら量はそう多くはない。
けれどもクッキーをおやつに嗜むうちに
なんだか牛乳に溶かして飲むのもまた始める気になってきた。
牛乳に溶かす方はあいかわらずおいしくはないままなのに不思議と気持ちが前向きになった。
クッキーは偉大だ。
それを作ってくれた奥さんもまた偉大だ。
目標のためにはちょっとおいしくない思いも必要になることもある。
けれどもおいしい思いだけしていたい気持ちはとても強力だ。
そんなとき、ちょっとの工夫で方法を変えてみると、
目先が変わってもとのおいしくないルーティンも続けられるような気がしてくる。
こうやって目標のために必要なルーティンを
みんなが無理なく続けるための工夫や手助けが
「福祉」というやつの根っこに本来あるべきものなのではないか。
ちょっとむりやりSDGsに繋げてみました。
(2)隙あらば運動すること
前回も書いたけれど僕は運動が嫌いだ。
ほんとうはこの記事のために毎晩走ろうかと思っていたけれど
やっぱりそんなことはしたくなかった。
だからできそうなことだけちょっとずつやることになった。
いま職場は雑居ビルの7階にあるので、
平日は毎回階段で上り下りするようにした。
基本デスクワークなので、
椅子に座りながらできる腹筋トレーニングを調べて
資料をこさえながら両足を交互に上げ下げした。
勤務中、なるべくお腹で呼吸をするようにした。
ごくたまに気持ちが乗ると、
帰宅してから腕立てと腹筋をするようになった。
まだ毎日やる気にはなれないけれど、
筋トレはお風呂と一緒でやり始めるまでの気乗りのしなさ、
面倒くささはとっても大したものだけれど、
やり始めてしまうと気持ちが良くて、
「やっぱり面倒臭かった」と後悔することはない。
わかってるなら毎日やればいいのに、
人の気持ちというのはそんなに理性で動くものでもない。
世界中が理性によって自分の感情を律して
あるべき未来を目指せたら、
どれだけの速度でこの世界は最高のものになるだろう。
わかっちゃいてもそれはとても難しいのだ。
いまは面倒臭いという感情にずるずる引っ張られながら指摘するだけにしておくけれど、
これはとても大事な問題意識だと思う。
感情をないがしろにすることなく、
つよく知的にやさしく暮らしていくために
僕たちは何ができるだろう。
まずは、体重をもりもり増やして元気いっぱい溌剌になることだ。
(3)毎晩寝る前位体重を測り記録すること
プロテインを飲む前に、その日の体重を測るようにした。
数値は測る時間帯によっても前後するので、
測定時間がわかるように測ったらすぐその日の数値をツイートするようにした。
それをまとめるとこのようになった。
5/7 23:51 48.0キロ
5/9 (さっそく測り忘れた。)
5/9 23:20 48.8キロ
5/10 23:56 49.4キロ
5/11 22:19 49.6キロ
5/12 24:24 49.4キロ
5/13 22:49 48.8キロ
5/14 23:40 48.9キロ
5/15 時間不詳 49.1キロ
5/16 22:22 49.0キロ
5/17 (酔っ払って測り損ねた。)
5/18 48.9キロ
5/19 23:13 48.1キロ
5/20 23:46 48.9キロ
5/21 時間不詳 48.6キロ
5/22 22:44 50.3キロ
(この日は会社の食べ放題でばかみたいに食べて気持ち悪くなる。)
5/23 20:43 49.6キロ
5/24 22:42 50.3キロ
5/25 25:26 49.8キロ
5/26 22:13 49.5キロ
5/28 24:28 49.9キロ
どうだろう。
まったくがっかりする結果ではないか。
そう、数値だけ見たら3週間かけて2キロ前後の増量に留まっている。
けれども3週間律儀に体重の経過を記録してわかったことがあって
それは体重の1キロくらいは誤差の範囲だし、
数値は単なる目安であって、それだけでは健康を測ることはできないという
なんだか当たり前のようなことだ。
測定前に1杯水を飲むか飲まないかで0.2キロは変わる。
その日トイレに寄った回数でも変わる。
ちょっとのことで数値自体はけっこう変わるものなのだ。
些細な数値の多寡にあまり神経質になってもしょうがないのだということが
3週間記録を続けてはっきりとわかった。
そんな簡単にブレるような数値にいちいち一喜一憂するのは
あんまりいいことではないような気がする。
2日ほど前、一度飲み会の暴飲暴食のおかげで50キロ台に乗ったにもかかわらず、
そこからまた数値が落ち始めてきて落ち込んでいると
奥さんが僕にこういった。
「なんだか体に厚みが出てきたね。筋肉がついてきたのかな」
たしかに爪楊枝のようだった身体は、
この3週間のゆるい奮闘で箸くらいにはなったかもしれない。
もともと皮下脂肪がないせいもあるけれど、腹筋もうっすら割れている。
そういえばだんだんと調子のいい日も増えているようだ。
気のせいかもしれない。
それでもいい。
感情はときに理性や事実よりも人を動かすのだから。
気のせいであろうと、その気になったらそれでいいのだ。
誰もが納得するような形で、結果が現れてくるにはたぶん長い時間がかかる。
数値というのはある程度はごまかせるけれど、
そう簡単に結果として現れてくれるものじゃない。
けれども日々の歩みは、数値に現れる前から
なにかしらちょっとずつ、ちょっとずつではあってもなにかしら変化を生んでいるのだ。
僕はすっかり嬉しくなって、今晩もプロテインを飲むだろう。
運動も、ちょっとずつする日数を増やしていくだろう。
一応目標の体重に安定するまでは、記録をつけるのも続けていこうと思う。